我が国は欧米と比べて管理部門の生産性が低いといわれている。会議が多い、人数が多い、省力化の遅れなど何となく非効率な気がする。しかし、どれくらいそうなのか、測定していないし方法も確立していないので、ハッキリとは分からないのが実情である。
そこで本書では、管理部門にも売上・利益の概念を導入し、管理部門の生産性を測定する方法をさぐっていく。管理部門の損益計算の仕組みができれば、管理部門にも部門業績責任が明確になり、採算意識・コスト意識が喚起され、改善意識も喚起される。
さらに、部門長から部の構成員、あるいは個人から部門目標までを一体として運営する「管理部門生産性向上システム」として提起し、実際の導入モデル企業事例ととも紹介されている。随所に、読者の疑問を解決してくれる河合コンサルのQ&Aコーナー付き。
はじめに
第T章 管理部門の生産性が“見えない”のを“見える”ようにする
1 管理部門の生産性が“見えない!”
(1) 管理部門課長のぼやき
(2) 管理部門課員のつぶやき
2 管理部門に売上・コスト・利益を導入し“見える化”を図る
(1) 売上を増加させる
(2) コストを減少させる
3 管理部門の生産性を“見える”ようにする仕組み
(1) 管理部門に売上を計上し利益を計算する
(2) 管理部門 部門別損益計算の概要
第U章 管理部門損益計算に必要なレートの算定
1 等級別人件費レート
(1) 等級別人件費レートとは
(2) 等級別人件費レートの算定の仕方
2 内部売上高レート
第V章 管理部門 部門別損益計算
1 管理部門売上高の計算
(1) 定常業務売上高の計算
@ 職務調査の仕方
A 作業時間集計から定常業務売上高を算定
B 定常業務売上高の変更
(2) 定常業務売上高の増減額の計算
@ 定常業務の質と量
A 定常業務売上高の増減額
(3) 改善開発業務売上高の計算
@ 改善開発案件のランクづけ
A ランクの確定
B 改善開発業務売上の計上
(4) 突発業務売上高の計算
@ 突発業務とは
A 突発業務の報告
B 突発業務売上高
2 管理部門人件費・経費の計算
(1) 社員人件費の算定
(2) 時間外手当の計算
(3) 雑給の計算
(4) 部門間の応援の計算
@ 他部・課へ応援する
A 他部・課から応援を受ける
(5) 直接統制経費の計算
(6) 本部経費配賦額の計算
第W章 部門業績評価制度
1 部門業績評価項目とウエイト
2 部門貢献利益目標達成率の考え方
3 管理部門の部門業績評価をどのように行うか
(1) 管理部門 部門売上高目標達成率の評価
@ 管理部門の部門売上高目標の設定
A 管理部門の売上高目標達成率の評価は特に何もなければ『3』評価とする
B 管理部門の売上高目標達成率の評価が『4』『5』になる要件―1
C 管理部門の売上高目標達成率の評価が『4』『5』になる要件―2
(2) 管理部門 貢献利益目標達成率の評価
@ 管理部門の貢献利益目標の設定
A 管理部門の貢献利益目標達成率の評価は特に何もなければ『3』評価になる
B 管理部門の貢献利益目標達成率の評価が『4』『5』になる要件
(3) 管理部門 部門売上高目標・実績、部門貢献利益目標・実績のまとめ
第X章 個人業績評価制度
1 業績とは
2 役割能力要件表
(1) 役割能力要件表の読み方
(2) 役割能力要件表と評価制度との関係
3 一般社員の個人業績評価
4 管理職の個人業績評価
(1) 部門業績責任者としての役割
(2) 部門活性化推進者としての役割
第Y章 処遇制度
1 昇給
(1) 役割給
(2) 昇給計算の仕組み
(3) 昇給計算の実際
2 賞与
(1) 賞与計算の仕組み
(2) 賞与計算の実際
第Z章 管理部門の部門別損益計算から処遇までの流れとその実際
1 管理部門の部門別損益計算から処遇までの流れ
2 管理部門の部門別損益計算から処遇までの実際
(1) モデル会社と部門の概要
(2) モデル部門(経理部)のデータ
(3) 経理部の部門別損益計算
(4) 経理部の部門業績評価
(5) 経理部長の個人業績評価
(6) 経理部事務職V等級K君の個人業績評価
(7) 個人業績評価から処遇へ
第[章 管理部門生産性向上システム
1 管理部門生産性向上システムとは
2 管理部門生産性向上システムのメリット
第\章 生産性向上システム
1 生産性向上システムとは
2 全社部門別損益計算の全体像
3 全社部門別損益計算の説明
4 本部経費配賦額の説明
(1) 本部経費の集計
(2) 本部経費の算定
(3) 本部経費の配賦
第]章 生産性向上システムの構築
1 全体のスケジュール
2 システムの構築
3 データ収集
4 試行
5 本番
巻末資料 モデル会社のデータ
『はじめに』の抜粋
我が国は欧米と比べて総務・経理といった管理部門の生産性が低いと言われている。確かに会議が多い、人数が多い、省力化が遅れているなど目につき、何となく非効率な感じがする。しかし、それがどのくらいなのかは、測定していないのでハッキリとは分からないというのが実情ではないだろうか。管理部門の生産性を測定する方法すら確立していないのが実態である。
本書は、管理部門にも売上・利益の概念を導入し、管理部門の生産性を測定する方法を探っていく。営業部門には売上高・売上総利益、製造部門には生産高・原価という数値があり、業績は測定できるが、管理部門にはこれに類する数値がないので業績を測定できないと考えられていた。本書では管理部門にも売上がある、利益があるとして、その生産性を測定する方法を探っていく。管理部門に“売上があるの?”“利益があるの?”“それをどうやって掴むの?”と思われるかもしれない。この疑問に対しては次のように考えればよい。現在では業務のアウトソーシングはいろいろなところで行われている。例えば経理部門の業務をアウトソーシングすることは可能である。アウトソーシング会社に見積を依頼すれば、経理部門の業務を洗い出し、それにどのくらい時間をかけて行っているかを調査し、見積もってくれるだろう。これを外部に委託しないで、内部に委託すると考えればよいのである。この内部委託料金を経理部門の売上とすればよい。そして利益は売上から人件費などのコストを差し引くと算定できる。このようにして管理部門の損益計算システムが構築されると、管理部門にも部門業績責任が明確になり、採算意識・コスト意識が喚起され、改善意識も喚起できる。
しかしこのような「部門別損益計算システム」は構築して運用すれば直ちに機能するというものではない。下図のように「部門目標設定」「部門別損益計算」「部門業績評価」「個人業績評価」「部門長及び部門構成員の処遇」というように、その前後の仕組みを整備し、これらを一体として運用することが必要である。この一体として運営するシステムを「管理部門生産性向上システム」という。
一体として運用するということは、部門別損益計算制度だけでなく、部門業績評価制度、個人業績評価制度が整備され、運用されるということである。我が国の企業・組織の人事管理は「個人」に力点が置かれ、「部門」への関心が薄いように思う。ほとんどの企業・組織では「部門業績評価制度」がないのではないだろうか。また「個人業績評価制度」の中に「部門業績」という評価項目がないのではないかと思われる。もしなければ、これらを整備することが必要である。
第1章は管理部門の生産性が“見えない”という問題提起から始まって、それではどうすればよいかという問題解決の方向性を示している。第2章は部門別損益計算に必要な等級別人件費レートと内部売上高レート算定の仕方を説明している。第3章から第6章は管理部門生産性向上システムのサイクルに沿って説明している。すなわち第3章は部門別損益計算、第4章は部門業績評価制度、第5章は個人業績評価制度、第6章は処遇制度である。第7章はモデル会社を設定して部門別損益計算⇒部門業績評価⇒個人業績評価⇒処遇までの実際を説明している。第8章はこれまでの説明のまとめである。これを「管理部門生産性向上システム」と呼ぶ。これを運用すれば、第1章で提起された管理部門の生産性が“見えない”ことの問題点は解決されることが分かる。第8章までは管理部門について説明したのであるが、実際は数値が明確に出る営業部門、製造部門が先行して行われている。第9章は営業部門、製造部門をドッキングさせた全社の生産性向上システムについて説明している。実際のシステム構築は全社で行うことになるが、全社、全部門となるとかなり複雑である。財務会計の知識もある程度必要である。まず第8章までの「管理部門生産性向上システム」をしっかり理解してから第9章の全社の生産性向上システムに進むとよいと思う。最後の第10章は生産性向上システムの構築について説明している。
本書はY社という一つの会社をモデルに設定し、これを舞台に説明しているので、実践的であるし、各所で説明している数字の整合性は取れていると思う。Y社のデータおよび「生産性向上システム」運用に必要な基準や帳票類は巻末資料としてまとめている。各所でいろいろとデータや帳票について述べており、説明が複雑になっているが、巻末資料でまとめているので、そこを見ていただければ分かりやすいと思う。Y社は、会社としての基本的な部門を備えている製造業とした。読者の会社が卸売業・小売業・サービス業であれば、製造部門を取り除いて考えればよい。
本書は、管理部門に売上・利益を導入して部門別損益計算の構築を説いたものとしては嚆矢と思う。本書を参考にして読者の会社に「管理部門生産性向上システム」を構築し、管理部門にも採算意識・コスト意識・改善意識を植えつけていただきたい。そして管理部門を活性化させ、新興国の追い上げに直面している我が国企業の体質強化・生産性向上に役立てていただきたい。
本書の執筆にあたっては、J社常務取締役見留伸治氏には実践の場をご提供いただくことにお骨折りいただきました。またJ社の社長・役員・社員の皆様にはいろいろな面でご協力いただきました。ここに本書となって結実できたことを心からお礼申し上げます。
2013年1月 河合克彦