貴社の目標管理で、次のような症状を感じられることはないであろうか。
- 目標の領域と仕事の領域にギャップがあり、目標で仕事全部をカバーできない。漏れが出る。その漏れたところを把握しきれていない。
- 目標を設定するということは、仕事の特定部分を区切り、焦点化することである。焦点化した目標はクローズアップされ、よく見えるが、それが輝くのと対比して目標とされない部分がぼやけてくる。関心が薄くなり、見えない状態になる。
- 目標管理は「個人目標シート」をツールにしてPDCAのサイクルを回すことであり、「個人目標シート」を介して上司・本人は「見える」状態になっている。しかし目標に上げた項目以外の仕事については「個人目標シート」のような管理ツールがなく、PDCAのサイクルは十分回っておらず、「野放し状態」、「見えない状態」になっている。
- 管理職は部門業績責任者であるが、目標設定に関して部門業績への認識が希薄であり、部門を意識した目標になっていない。
- 目標というものは変化、前進、向上、改善、完成といったものであるべきである。しかし、いつもやっていることをいつもどおりしっかりやりますといった目標が多く上がってくる。達成しやすい目標や維持目標が毎年繰り返されている。
- 逆に目標がノルマ化し、とても達成できそうにない目標を押し付けられる状態になっている。
このような症状への処方箋が本書で提起する
「役割目標によるマネジメント」である。何らかの解決策や示唆が得られるはずである。これを図示すれば
「役割目標によるマネジメント概念図」のようになる。
「役割目標によるマネジメント」は現在一般的に行われている「目標管理」の強みを生かし、弱点を克服した、新たな視点での「目標管理」の提案である。
「目標管理」の強みは、組織ニーズと個人ニーズの統合、会社価値観・経営目標の浸透、個人の役割の明確化、目標設定・目標遂行・目標評価のプロセスの「見える化」等が上げられる。
「目標管理」の弱点としては、前述の症状と重なるが、一般的に @ 仕事の領域・評価の領域・目標の領域にギャップがあり、目標の領域で、仕事の領域・評価の領域をカバーできない、A 目標に設定された仕事が焦点化し、目標以外の仕事が見えなくなる、B なぜか部門業績への関心が薄い、C 目標管理の意図や運用が正しく理解されないと「ノルマ管理」「達成しやすい目標の設定」に陥る恐れがある、が上げられる。
「役割目標によるマネジメント」は、目標管理の強みは生かし、目標管理の弱点は次のように克服を図っている。
- 仕事の領域・評価の領域・目標の領域のギャップを克服する策としては「個人目標」「部門目標」「役割期待」の3つの成果把握の仕組みを用意し、本人の成した仕事の成果を漏れなく把握するようにした。
- 目標に設定された仕事が焦点化し、目標以外の仕事が見えなくなる」という弱点に対しては、目標以外の仕事を「役割期待」として期待するところを明確にして上司・部下が確認・合意することによって「やるべきこと」の見える化を図った。目標以外の仕事として「役割期待」に上げられるものは定常業務・基本業務、必ずやることが必要な業務である。
- 部門業績への関心が希薄である点の克服策としては、部門業績評価制度を構築し、「部門目標」で成果を把握することにした。
- 「ノルマ管理」「達成しやすい目標の設定」に対しては、やることの確認を一番重要なものと位置づけ、部門メンバーが参画した部門ミーティングでの徹底議論、役割目標設定面接時の話し合いや合意を上司・部下間で徹底的に行うことによって克服する。
以上「役割目標によるマネジメント」を目標管理の視点から説明したが、次に
評価の視点から説明する。
「役割目標によるマネジメント」では個人の成果を「期待される役割をどの程度果たしたか」として捉える。この成果は的確に把握されなければならない。的確に成果を把握するということは次の2つを押さえておく必要がある。「成果把握において漏れがあってはならない」ということと、「やるべきことが明確になっていること、つまりやるべきことが『見える』こと、成果把握のプロセスが『見える』こと、やったことが『見える』こと」である。
まず
「成果把握において漏れがあってはならない」という点について。
本人に期待される役割をその特性に応じて次の3つに分け、それぞれ得意としている成果把握のやり方に委ねることにした。すなわち変化、前進、向上、改善、完成といった特定業務、および売上・利益等数値化できる業務については
「個人目標」、部門業績に関する業務は
「部門目標」、定常・基本業務や必ずやることが必要な業務は
「役割期待」で把握することにして、漏れをなくすと同時に、それぞれの得意分野を生かして的確に成果を把握するようにした。ここにいう「役割期待」は「正確度」「迅速度」「チームワーク」といった一般的な評価項目をイメージしていただきたい。「個人目標」は目標というピンポイント(虫の目)で成果を把握し、「役割期待」は期間中の行動や結果をワイド(鳥の目)に把握する。二つの目によって成果を漏れなく、しかもポイントをついて把握するような仕組みである。
「やるべきことの見える化」について。「個人目標」は変化、前進、向上、改善、完成といった特定業務、および売上・利益等数値化できる業務について明確な目標を設定することによって見える化を図った。「部門目標」は部門業績に関することを目標化することによって見える化を図った。「役割期待」は定常・基本業務や必須業務について期待することを明確にして上司・部下が合意することによってやるべきことの見える化を図った。
「成果把握のプロセスの見える化」について。「個人目標」「部門目標」「役割期待」の3つを一体として「やることの確認」「やっていることの確認」「やったことの確認」のサイクルを回して行うことにより成果把握のプロセスを見えるようにした。
「やったことの見える化」について。評価というものは、期末に確認された「やったこと」が、期初に決めた「やるべきこと」に対して、どれほど達成したか、実現したかを測ることである。評価は、本人の自己評価、一次評価、二次評価の順で行い、それぞれの評価結果が異なれば、本人と一次評価者間、一次・二次評価者間で意見の交換をする。そして最終評価は一次評価者から本人へフィードバックされる。そのようなプロセスをしっかり行うことにより、やったことが見えるようになり、評価の納得性が高まるようにした。
「個人目標」「部門目標」「役割期待」の3つは一体としてサイクルを回すので、この3つを括った概念を「役割目標」と表現することにする。
以上、「役割目標によるマネジメント」を目標管理の視点、評価の視点から説いてきた。次に「役割目標によるマネジメント」を
管理職の視点から見ることにする。すると新たな景色が広がってくる。「役割目標によるマネジメント」は管理職がPDCAのサイクルを回すためのマネジメントシステムそのものである。そのマネジメントシステムは目標管理と評価が織り合わさった形で構成される。目標管理は評価と結び付かなければ十分な力を発揮できない。評価も目標管理の力がなければ的確な成果の把握が出来ない。目標管理と評価は相補いながら、相乗効果を発揮するものである。「役割目標によるマネジメント」は目標管理と評価を織り合わせた布ということが出来る。目標管理が縦糸であれば評価は横糸である。この目標管理と評価はそれ自体にパワーを持っている。会社価値観・会社目標・部門目標の浸透、管理職のリーダーシップ、見える化などに目標管理と評価は「パワー」「力」を持っている。目標管理のパワーと評価のパワーを管理職は活かし切ることが必要である。そうすれば今以上にマネジメントがスムーズにでき、部門業績の向上と部門活性化といった「組織の満足」と自己実現、能力開発、評価の納得性向上といった「個人の満足」という果実を同時に得ることが出来る。
「役割目標によるマネジメント」を運用するとき、管理職の負担が大きくなるのではないかという指摘がある。「個人目標」「部門目標」「役割期待」の3つを「やることの確認」「やっていることの確認」「やったことの確認」のマネジメントサイクルでしっかり行うのは、相当の時間と労力が必要である。特に「役割期待」については「やったことの確認」つまり評価は行っているが、「やることの確認」「やっていることの確認」は行っていない企業が多いのではないかと思う。
これを行うことになるのであるから管理職のやることは増加する。成果把握の「厳密さ、漏れのないこと」や「見える化」を求めると、これを担う管理職に負担をかけるのは事実である。しかし少し考えていただきたい。部下の仕事について「やることの確認」「やっていることの確認」「やったことの確認」をするのは管理職としてやらねばならない仕事、本来の仕事ではなかったのか。従って「管理職の負担増」ということで後退してはならない。「役割目標によるマネジメント」が有ろうが無かろうが管理職はPDCAのマネジメントサイクルを回さなければならないのである。そのマネジメントサイクルを回すためのツールとして「個人目標」「部門目標」「役割期待」が用意されている。このツールをうまく活用すれば効果的に組織活性化が促進され、部門の業績向上に結実するのである。
本書は「役割目標によるマネジメント」の内容と運用の仕方について筆者の人事管理コンサルティング実践の中で試行錯誤しながら生まれたものであり、現在、多くの企業で実践されている。この「役割目標によるマネジメント」を実際に運用して感じることであるが「目標管理」や「評価」には、それ自体に「パワー」があるのである。管理職は「目標管理」や「評価」を実践する人である。多忙を理由にして逃げてはならない。むしろ「目標管理のパワー」「評価のパワー」を積極的に活用して、会社価値観・会社目標・部門目標の浸透、リーダーシップ、部下育成、コミュニケーション、課題形成などといった管理職に求められる組織活性化推進者としての行動に生かしていただきたい。そして部門業績を達成していただきたい。
序章
1 これまでの目標管理
2 新たな視点での目標管理
3 評価の視点(的確な成果把握)
4 管理職の視点
5 本書の活用方法について
第T章 目標管理はどうあるべきか
1 目標管理の強み
(1) 組織の満足(組織業績達成)と個人満足の同時達成
(2) 見える化
(3) 会社価値観・経営目標の浸透
(4) 個人の役割の明確化
(5) 自分で考える
(6) 仕事の焦点化
2 目標管理の弱み
(1) 目標に設定された仕事が焦点化し、目標以外の仕事が見えなくなる
(2) 仕事の領域・評価の領域・目標の領域にギャップ
(3) なぜか、部門業績への関心が薄い
(4) 維持目標が上がってくる
(5) 「ノルマ管理」「達成しやすい目標の設定」
3 目標管理弱みの克服
(1) 「目標以外の仕事が見えなくなる」の克服
(2) 「仕事の領域・評価の領域・目標の領域にギャップ」の克服
(3) 「なぜか、部門業績への関心が薄い」の克服
(4) 「維持目標が上がってくる」の克服
(5) 「ノルマ管理」「達成しやすい目標の設定」の克服
4 目標管理と評価は、縦糸と横糸
5 目標管理のパワーを活かしきる
(1) 組織の満足
(2) 個人の満足
(3) 経営理念・経営戦略の浸透
(4) 見える化
(5) 目標管理のパワーの全体像
6 評価のパワーを活かしきる
(1) リーダーシップ
(2) 鳥の目
(3) 部下との信頼感
(4) 目標管理と評価のパワーを活かしきる
7 役割目標によるマネジメント
第U章 役割目標によるマネジメント
1 成果把握の要点
(1) 本人の仕事を漏れなくカバーしているか
(2) 見える化
(3) 部門業績を明確に意識しているか
(4) 目標管理はその特性に合った活用がされているか
2 成果把握のタイプ
(1) A社の例
(2) B社の例
(3) C社の例
(4) 役割目標によるマネジメント
3 役割目標によるマネジメントの深耕
(1) 仕事の成果の把握
(2) 目標管理で仕事の成果を把握する場合の問題点
(3) 目標管理の進化
(4) 「目標管理の進化」、別の視点からの説明
(5) 業績評価項目とウエイトの観点から
(6) 「役割目標によるマネジメント」の考え方
4 役割目標によるマネジメントの内容
(1) 個人目標
@ 個人目標設定の手順
A 成果からのアプローチ
B 自分の役割からのアプローチ
C 自分の顧客からのアプローチ
D 仕事の進め方からのアプローチ
E 自己啓発からのアプローチ
F 問題から課題へ
G 個人目標の設定
H 目標設定ワークシート
(2) 部門目標
@ 部門業績とは
A 部門の目的
B 部門業績評価基準
C 部門業績評価項目
D 部門業績評価項目の定義と評価基準
E 部門業績評価項目とウエイト
F 部門業績の反映
(3) 役割期待
@ 業績評価項目
A 個別面業績評価項目と役割期待の関係
B 業績評価項目から役割期待へ
C 役割期待と個人目標の関係
D ステージ別役割・能力要件表
E 一般社員の業績評価項目
F 管理職の業績評価項目
(4) 役割目標によるマネジメントを補完するシステム
@ チャレンジ加点
A 達成志向性
第V章 役割目標によるマネジメントの運用
1 役割目標によるマネジメント運用の全体像
2 やることの確認
(1) やることの確認 全体像
(2) 部門目標の策定
(3) 部門目標分担マトリックス表
(4) 部門ミーティング
(5) 個人目標の設定
(6) 個人目標のチェック
(7) 役割期待
(8) 役割目標設定面接
3 やっていることの確認
(1) やっていることの確認 全体像
(2) やっていることの確認における留意事項
(3) 観察記録
(4) 部門ミーティング
(5) 役割目標中間時面接
4 やったことの確認
(1) やったことの確認 全体像
(2) やったことの振り返り
(3) 部門目標評価
(4) 個人目標評価
(5) 役割期待評価
(6) 業績評価
(7) 役割目標振り返り面接
5 やったことの処遇への反映
6 役割目標によるマネジメントの簡略化
7 役割・業績・能力基準人事賃金システムの全体像